大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和59年(行コ)48号 判決

東京都大島町波浮港一六番地

控訴人

金川一雄

右訴訟代理人弁護士

鶴見祐策

東京都港区芝五丁目八番一号

被控訴人

芝税務署長

小宮山優

右指定代理人

窪田守雄

三浦道隆

大谷勉

中村有希郎

右当事者間の課税処分等取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

原判決を取り消す。

被控訴人が昭和五二年三月八日付けで控訴人に対してした昭和四八年分以後の所得税の青色申告書提出承認取消処分を取り消す。

被控訴人が昭和五二年三月八日付けでした控訴人の昭和四八年分、昭和四九年分所得税の各更正及び昭和四八年分所得税に係る過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

被控訴人が昭和五二年三月一八日付けでした控訴人の昭和五〇年分所得税の更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

被控訴人が昭和五二年七月八日付けでした控訴人の昭和四九年分所得税に係る無申告加算税賦課決定(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決

二  被控訴人

控訴棄却の判決

第二当事者双方の主張及び証拠関係

次のとおり付加するほかは原判決事実摘示及び当審記録中の書証目録、証人等目録の記載と同一であるから、これを引用する。

(控訴人の当審における主張)

一  質問検査の際には原則として事前通知がなされているのに、控訴人に対して事前の通知がなかったのは、控訴人が民主商工会の役員であったため、控訴人を差別したものであり、本件調査が課税庁の他事考慮によってなされたことを裏付けるものである。

二  質問検査の際に、調査理由の告知がないままに帳簿書類を提示すると際限なく調査の範囲が拡げられるのが通例である。したがって調査の公正を担保するためには調査理由の告知が不可欠の手続的要件である。

三  所得税法一五〇条一項一号にいう帳簿書類の備付け、記録又は保存の意義は同法一四五条一号の規定するところと同一であり、また同法一四八条一項に定めるところとも統一的に理解されなければならない。そして、同法一四八条一項に基づく施行規則(省令)によれば、これらの義務の根拠規定は個別に定められ、それぞれ行為の態様や性質を異にすることが明らかである。したがって一個の行為や事実が備付け、記録又は保存の各義務違反のいずれにも該当するなどということはあり得ない。

青色申告承認の取消処分には明確な法律上の根拠が必要であることは憲法三〇条、八四条の定める租税法律主義、さらには憲法三一条の適正手続の保障が要請するところである。

帳簿書類を提示しなかったことをもって青色申告承認の取消事由にしたいのであれば、その旨の立法上の措置をとるべきであって、明文の規定がないのに右不提示をもって青色申告承認の取消事由とすることは許されない。

(被控訴人)

控訴人の主張をいずれも争う。

理由

当裁判所も、控訴人の本件各請求はいずれも理由がないと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決理由と同一であるから、これを引用する。

一  原判決四一枚目裏四行目末尾に「なお、控訴人は、控訴人に対する事前の通知がなかったのは、控訴人が民主商工会の役員であったため控訴人が差別されたものであると主張するが、前記認定事実によれば、被控訴人係官は控訴人に対する第二回ないし第四回、第六回の調査臨場については事前に連絡をしていたものと認められるので、右事実にかんがみると、被控訴人係官が控訴人を殊更に差別する意思を有していたものと認めることはできず、その他本件全証拠によるも、控訴人主張の差別の事実を認めることができないので、控訴人の右主張は失当である。」を加える。

二  原判決四二枚目裏一行目「具体的」から同三行目「独自の見解に基づき」までを「調査の具体的理由の開示、民商事務局長の立合などを要求して」と改める。

三  原判決四三枚目裏四行目末尾に「なお、前記認定事実によれば、控訴人は録音の許否にかかわらず、本件調査を拒否したものと認められる。」を加える。

四  原判決四六枚目表四行目「租税法律主義」の次に、「、法律の定める適正な手続の要請」を加える。

五  原判決五〇枚目表六行目「昭和五〇年分の」の次に「くさや材料、食料品、雑貨の仕入金額の」を、同七行目「材料の」の次に「仕入金額の」を加える。

六  原判決五〇枚目裏三行目「主張し、」の次に「当審証人鈴木幸一の証言、」を、同六行目「しかしながら、」の次に「当審証人鈴木幸一の証言及び」を、同八行目「いうものにすぎず」の次に「(ただし、当審証人鈴木幸一の証言によれば、鈴木幸一が控訴人から分けてもらっていたくさや材料の値段は必ずしも仕入値であったとは認められない。)」を加える。

七  原判決五八枚目裏三行目「〈3〉、ないし〈8〉」を「〈3〉ないし〈8〉」と改め、原判決六四枚目裏五、六行目「鈴木幸一から」の次に「の」を加える。

八  原判決六六枚目裏末行「そして」の次に「成立に争いのない乙第一四号証及び」を、原判決六七枚目表一行目「結果によれば、」の次に「昭和四八年当初現在」をそれぞれ加える。

九  原判決六九枚目表一〇行目「第二条」の次に「、第三条二項」を加える。

以上により、控訴人の本件各請求はいずれも理由がないから、これらを棄却した原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理由がない。

よって、本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森綱郎 裁判官 高橋正 裁判官 清水信之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例